桜涙 ~キミとの約束~



「はい、じゃあちょっと音を聞くね」


聴診器を耳にかけた先生に促されて、私はパジャマをかるく捲くってみせた。

チェストピースの少しひんやりとした感覚に、私の肌が粟立った。

ふいに、胸の音を聞きながら先生が声をかけてくる。


「彼氏、なかなかの好青年だね」


奏ちゃんの事を話されて、私は愛想笑いを浮かべた。


「自慢の……幼なじみなんです」

「幼なじみでもあるんだ」

「……はい」


本当は、彼氏じゃない。

少なくとも、私は付き合うという意思表示はしていないから。

でも、事情を何も知らない先生に詳しく話すのも何か違う気がして、私は曖昧に返事をするしかなかった。

それから、また午後にと告げて先生は次の患者さんの元へと向かった。

奏ちゃんが戻ってきたのはそれから少ししてからで。