桜涙 ~キミとの約束~



……そんなことない。

勝ち負けが全てだとは思わないけど、奏ちゃんの方が上手だったり得意だったりする事だってあるのは、今日までの付き合いで知っている。

だからそう言えばいいのに……言い出せない。

今この場の空気が、奏ちゃんの醸し出す雰囲気が……


少し、怖いから。


「ただいまー」


トイレから戻ったリクの声は呑気なもの。

だけど正直ちょっとだけ助かったと思った。

リクが混ざる事でいつもの私たちの空気に戻れれば、とりあえずは奏ちゃんの気持ちも楽になるかと思ったからだ。

もし奏ちゃんがリクとの事で悩んでいるなら、また別の時にちゃんと話を聞いてあげられればいい。