「王子は入学したばっかりだもんね…」
いつも笑顔の佐藤先輩の顔が曇った。
夕暮れがさらにそれを際立たせる。
「東 蛍夜は美術部の先輩で雛先輩の彼氏だった人だよ。ちなみに雛先輩の一つ上」
「…だった……?」
彼氏という言葉に胸が痛む。でもそれ以上にだったという言葉が気になった。
という事はまだ俺にも希望はあるかもしれないと期待で胸が一杯になる。
「……だの…」
「…え………?」
何故か佐藤先輩の声がか細くなった。
佐藤先輩、今なんて…
「…死んだの」
―ドクンッ
心臓が嫌な音を立てて軋んだ。
死んだ…って……
何言って……
「二人で海に行く約束をして、向かってる途中でバスが事故に合ったって…」
俺は……
何を期待してたんだよ…
先輩の気持ちも考えないで…
「雛先輩は助けを呼ぶ為にバスから出ていたから助かったんだけど、それ以外の乗客は皆バスが炎上してそのまま…」
すると佐藤先輩は涙を堪えるように笑った。
「二人とも、本当に仲が良くて、私の事…可愛がってくれたの…」
「……………………」
「雛先輩が絵を始めたのも、東先輩と出会ったからだって話してた。あの時の先輩は本当に幸せそうに笑ってたけど……」
佐藤先輩は雛先輩の顔を見て悲しげに眉を下げた。
「東先輩が死んだ2年前から、心から笑わなくなった気がする…」
あぁ…だから……
やっと雛先輩が泣いていた理由が、謝っていた理由が分かった気がする。


