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入学式から一週間が経った。今日も授業には出ずにキャンバスと向かい合う。


誰もいない美術室。
私だけの世界。


この時間が一番絵と向き合える。


「…………………」


海の底に静かにたゆたう魚達を描く。


モデルの無い幻想の世界。


「………ふぅ……」



しばらくすると絵が完成した。時計を見るとざっと3時間ほど経っている。


お昼食べてなかったな…


絵の事になると自分そっちのけでひたすらに筆を走らせてる。


「…うん、上出来」


椅子に腰掛け、机に肘をついて自分が生み出した絵を眺める。


………綺麗な子が出来たな。ここ最近で描いた絵で一番かもしれない。


……海…か……


「…蛍ちゃん……」


あの日、私が海に行きたいなんて言わなければ…


私が…我が儘言わなければ…


「失わずにすんだのかな?」


海なんて行けなくたっていい、私の事なんて好きにならなくていい。


だから……
なんでも我慢するから、もう何も望まないから…


蛍ちゃんを返してよ…