「ここでいいか。で、雛先輩に何かあったんですか?」


廊下に出てすぐなは佐藤先輩に尋ねると、佐藤先輩は目を見開いて固まった。

そしてすぐに吹き出す。


「先輩、なんですかその笑いは」

「ごめん、なんだ、佐久間君も雛先輩を忘れられないんだ?」


俺も………?
それは、誰を指してる?


淡い期待が俺のなかに沸き上がる。


もしかして、雛先輩も、俺を………?



「佐久間君、雛先輩が別れようって言ったのは、先輩が東先輩のお母さんに会ったのがきっかけなの」

「もしかして、あの人……」



あの時、先輩がハンカチを拾ってあげた人……
そういえば、先輩が別れようって言ったのもあの日だった。

あれが、東先輩の母親だったのか。



「お母さん、だいぶ様子が変わってたんだと思う。雛先輩、自分が東先輩から逃げた事、後悔してたから…お母さんと東先輩から逃げた自分が、幸せになっていいはずないって言ってた」




先輩は、まだ自分を責めてるのか……
優しい人だから、なおさら苦しんだはずなのに…


「先輩が幸せになっちゃいけない理由なんてないんですよ。俺、ずっと傍にいて幸せにしてあげたかった。でも……」


俺が雛先輩に近づく度に、雛先輩は東先輩との間で苦しむ。それが分かってて、自分の身勝手で手を伸ばしていいのか?



大切だから、近づきたいのに、近づくのが怖い。



「俺が傍にいる事で、雛先輩を、傷つけたくないんです」


「……雛先輩、佐久間君と同じ事言ってたよ。自分が弱いから、また迷って佐久間君を傷つけてしまうからって。好きな人を傷つけてしまうのは、誰だって怖いよね。でも、大切な人を傷つけてしまうのは、本当にいけない事かな?」



いけない事……じゃないのか?
俺は、雛先輩を傷つけたくないし、傷つけるってわかってて、傍にいたいなんて言えない。