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風が冷たくなり、冬が近づく11月。
私はついき絵を完成させた。


空と海。
その中心にいる私を表した球体。


どちらも大切で、どちらも選べなかった私の恋。
青空のようなあなたと、海のような君、私の選択一つで、どちらにも溶け合う素質をもっている。


優柔不断な私そのもの。

これが、私が…一度は選び、どちらも選ぶ事が許されなった私の心を占めるモノ。


私はそれにそっと布を被せた。



「一番に、秋君に見せるって約束………守れないね…」



ううん、もう秋君は、約束とすら思ってないかもしれない。



ふと、人の気配がした。


「秋君!?」

咄嗟に出てしまった声に、自分自身が驚く。


秋君の事、無意識に呼んでしまうくらいに、忘れられないでいるんだ、私………



「先輩………絵が出来たんですね」

「な、奈緒ちゃん?早かったね、来るの」


授業が終わり、すぐに来たのだろう奈緒ちゃんがそこにはいた。


奈緒ちゃん、変に思ったかな?
それに、奈緒ちゃん今日は少し元気が無い……?



部屋に入ってきても、扉の前から一歩も動こうとしない奈緒ちゃん。


もしかして…………


「秋君との事、聞いた?」


秋君と奈緒ちゃんはなんだかんだ仲が良かった。
そういう話をしていてもおかしくない。


「はい。先輩、どうしてですか?あんなに二人とも幸せそうだったのに……」


「……私ね、この前蛍ちゃんのお母さんに会ったの」


「東先輩のお母さんに……ですか?」




私は頷いて、あの日の事を思い出す。



「私、秋君の優しさに甘えて、蛍ちゃんの事から逃げようとしてた。辛いのは、私だけじゃなくて、蛍ちゃんのお母さんも同じなのに……。お母さん、すごくやつれてて、私だけ幸せになるなんて駄目だって……気づいたの」



私は、光子さんや蛍ちゃんの為にも、蛍ちゃんの事を忘れちゃいけなかった。


なのに………秋君を好きになってしまった。



「私は忘れちゃいけなかったのに、秋君を好きになっちゃいけなかったのに………」

「先輩、東先輩を忘れないのと、想わなきゃいけないのは違います!」



忘れないのと、想う事が違う………?


「先輩、先輩が誰を好きになっても、東先輩は雛先輩の中から消えないし、誰よりも東先輩自身がいつも雛先輩の幸せを願ってたのを忘れちゃったんですか!?今の先輩を見たら、東先輩は絶対に悲しみます!」



私が誰を想っても………蛍ちゃんは消えない……
今の私を見たら、蛍ちゃんはきっと…………



『馬鹿だな、ひよっこ。いつまでも俺に甘えんな』
そう言って、私の額にデコピンをするんだ。


『俺が見ててやる、幸せになれ…雛』
きっと、そうやって優しく背中を押してくれる。


ーポタッ

涙が流れた。
蛍ちゃんの優しさ、思い出が私の中に甦る。


「先輩、先輩は佐久間君が好きなんですよね?忘れなきゃいけないって必死に押さえ込まなきゃいけないほど、佐久間君が好きなんです、きっと。もう、先輩は選んでるしゃないですか」



忘れなきゃ、想っちゃいけない………
そう言い聞かせてきた私。

それは逆をいえば、それだけ必死にならなくちゃ、忘れられない恋だって事だ。



「………私、もうとっくに答えは決まってたんだね…」


なのに、気づいた時にはもう遅い。
それに、そう気づいても、心はやっぱりそう素直に受け止められない。


「だったら!!」

「たとえ、そうだとしても………。私は、私の都合で秋君を振り回しちゃったの。私は弱いから、いつまた、迷ってしまうかわからない、その度に大切な人が傷つくのは…嫌なんだ」


だから、私はこのままで。
強くなれるその日まで、誰かを好きにはならない。


過去を乗り越えて、前を歩けるまで、私は一人で歩いていこう……


「そんな……想いあってるのに……」

「そうだね、でも、大切だからこそ、離れるの」


私が笑うと、奈緒ちゃんはそれ以上なにも言わなかった。



「奈緒ちゃん、一つだけ頼まれごとしてくれる?」

「え、私に出来る事ならなんだってします!私に出来るのは、これくらいですから…」



悲しげに笑う奈緒ちゃんに、私は伝える。


約束、これだけは秋君に見て欲しい。
私は描き終えた絵に視線を向ける。


奈緒ちゃんは頷いて教室を出ていった。


「来て……くれるのかな………」


ううん、来てくれなくてもいい。
でも、約束は果たしたいから……



私は窓の外へ出て、ベランダで秋君が来るのを待った。