―7月下旬
夏休みに入った私達美術部は、部員が増えた事もあって二泊三日の合宿をする事になった。



「…………………」



バスの窓から見える海を見つめる。
あれから二年経つのに、バスも海も嫌な記憶を思い出させる。




―キキーッ!!


タイヤが地面に擦れるスリップの音。
沢山の悲鳴、私をとっさに庇った蛍ちゃんの腕の強さ。


目を閉じれば蘇る悪夢のような現実。



「…先輩?気分悪いんですか??」

「あ…ううん、大丈夫だよ」

「でも、顔が真っ青ですよ!」


菜緒ちゃんが心配そうに私を見つめる。


心配かけちゃったな……
しっかりしないと!


「合宿、来れて良かったね」


私は話をそらそうと話題を変える。


「はい!!まさか念願の合宿にいけるなんて!!」

「ふふっ、そうだね。今までの部員数じゃ絶対無理だったもんね」


「これも王子効果ですよ!!まさか部員が20人をきるなんて!!」


王子効果……
確かに秋君のおかげで部員が増えた。
最初は秋君目当てで入った人も、今では真剣に絵を描いてる。




「あとは先輩みたいにうまくなりたいって人が増えたおかげで活気も出てきたし!」

「私??」

「そうですよ!!みんな先輩を目指して修行してるんですよ!!」


修行…………
菜緒ちゃん、菜緒ちゃんは本当に17才?


「先輩、一生ついて行きます!!」

「う、うん??」


菜緒ちゃんが燃えてる……
まぁ、いいか。楽しそうだし。


「先輩達、楽しそうですね…」

「これ、王子!先輩と私のラブラブタイムを邪魔するでないよ!」




前の席に座る秋君が恨めそうに私達を見つめる。



「ふっふーん♪公正な勝負で決めたのだから文句は無し!」

「チッ…」

「そこ!本性出さない!」

「~♪」




菜緒ちゃんの指摘を鼻歌でかわす秋君。




これは前日から続く見慣れた光景。


なんでも、私の隣にだれが座るかという勝負をじゃんけんで、決めてから二人はずっとこうらしい。



勿論、勝ったのは隣に座る菜緒ちゃん。
帰りも勝負するらしけど、行きと帰りで順番に座ればと提案したが却下された。

なんでも、勝ち取らなきゃいけない場所なんだとか。



「佐藤先輩、そこもう俺に譲ってくれていいですよ?」

「嫌だね。負けた王子に王座は渡しませんよ!」



今に至る。


全く菜緒ちゃんの言葉の意味がわからない。でも、こんな会話が楽しい。