「あ、明日はイヴかぁ…」


私は、目に溜まった涙を乱暴に手で拭った。

昨日のクリパが、ずいぶん前のことのように思える。


私の部屋に飾ってきた花束の事を思い出すと、胸がキュッと痛んだ。




「澪?!」


突然後ろから肩を掴まれ、私は振り向いた。



「響!」

「やっぱり、澪だった」


響は走ってきたのか少し息が弾み、アッシュブラウンの毛先が跳ねていた。

私の肩に手を置いたまま、人並みから外れるように街路樹のそばに導いた。



「ショップの窓越しに、澪が歩いているのを見つけて---

…どうした?」


私を見下ろす力強い目が、細められる。



「え…」

肩に置かれていた手が、私の頬を包む。


「泣いていたのか?」


響の優しく低い声に、止まっていたはずの涙が零れ落ちた---