全国の数ある飲食店の中から、より良い店を五段階の星の数で紹介する雑誌『みちゅらん』。


その記者である私は、毎日色んな店で客として食事をするのが仕事だ。


今日はとある県の郊外にある、わりとリーズナブルで美味しい料理を出すと評判の店、
レストラン『クイ・ダ・オーレ』で少し遅い夕食を採っていたのだが……


「おいっ!なんだこりゃあ~!
店長はどこだ!店長呼んでこいっ!」


私の向かい側のテーブルに座っていた二人組の男の客の一人が、突然大声を上げて喚き始めた。


いったい何事があったのかと、周りの客が小声で囁く。


すぐさま、レストランのオーナーらしき人物が小走りでその二人組のところへとやって来た。


「どうかなさいましたか?お客様」


「どうかなさいましたかじゃねえ!
これを見ろ!髪の毛が俺のカレーの中に入ってやがったんだよっ!」


こういうのは、いけない。


食品の衛生上の問題は、料理の旨い不味い以前の基本的な要件である。


ただ、今回に限ってはこの店には同情すべきところがある。


何故なら、私は見ていたのだ。


今、大声で喚いているあの男が自分で髪の毛を抜いて、カレーの中に入れた瞬間を。


どうしてそんな事をするのか?


オールバックにサングラス、趣味の悪い金色のブレスレット……あの二人組の風体を見ればおよその想像はつく。


この二人組は、髪の毛混入をネタに店を強請ろうとしているのだ。


まあ、私が証言して店の味方になってやってもいいのだが、正直こんな時のこの店の対応がどんなものなのか興味があるので、敢えて証言はしない。


あの二人、恐いし……


私は、しばし店側の対応を興味を持って見物する事にした。




店のオーナーは、神妙な顔をして暫くカレーに入っていたという髪の毛を眺めていた。


「オラオラ~、このおとしまえどうつけてくれるんだよ~~っ!」


「……………」


通常であれば、お客様に謝罪し、迅速に新しい料理を用意する……
そんなところが妥当だが、この二人組がそんな事では納得する筈が無い。


あのオーナー、果してどんな対応をするのだろう……



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