何度でも何度でも…

「んなこと知るかよ。あれ以外言うことなんて思いつかない」

止めていた歩を再びすすめはじめる海斗に慌てて並ぶ

「も少しさ、手出すのやめてくださいとか、なんかこう白鳥さんのやる気を削ぐようなことは言えないわけ?」

一度しるふ一瞥を投げかけてから、ふと考える風情で空を見上げた後、

「無理だな」

あっさりと頷く

諦めとともに横の海斗をにらんだしるふの耳に海斗の低い声が響く

「目の前で自分の女が口説かれてて無視しろって言う方が無理だろ」

すっと向けられた漆黒の瞳は、それだけで少し鼓動を速くする

「…それは…、」

そう、かもしれない、ね…

だんだん小さくなっていくしるふの声は、うれしさの裏返し

俯きかげんで小さく微笑んだしるふは、そっと海斗の手に自分のそれを重ねる

驚いたような反応を見せず、すぐに優しく包み込んでくれる海斗の手は、しるふのそれより一回りほど大きい

「…海斗」

そっと優しい気持ちのまま呼びかける



振り向いた海斗の瞳を見て、

「……なんでもないや」

やっぱりいい、とこの気持ちを伝えてしまうのがもったいなくて小さく首を振った