この前の店での事を思い出した。
私はとっさに書類で顔を隠す。
「黒崎、これがこの前言ってたお得意様キャンペーンの企画書だ、担当各課と見直してくれんか」
黒崎さんが中島部長から書類を受け取り眺めている。
その隙に席に戻ろうとした所を、黒崎さんに止められた。
「ああ桜井、ちょうどいい所にいた。悪いがこれを今すぐ10部ずつコピーしてまとめてくれないか、藤本がまだ戻ってこないから」
「あ!は、い!」
部長に顔を背けるようにして書類を受け取ろうとした時、部長が横から私の腕を掴んだ。
「おい君、・・・どこかで会ってないか?」
部長の思わぬ行動に体が硬直してしまう。
ここでバレたら全て終わりだ。
「え・・・そ、そうですか!?」
パニックになり、声が上ずる。腕を掴んでいる部長の力は緩まる気配がない。
その時、私の顔を見つめながら必死に思いだそうとしている部長の手を、黒崎さんが払いのけてくれた。



