「俺さ、色々あって辛かった時にあの子に会ってさ。すごい励まされたんだ。大げさだけど生きる希望だったんだよな。だから家が大変だって聞いたとき、すぐ助けたいと思った。それでこの前お金を貸すって言ったら、見事に断られてしまったよ」



そう言って笑い、グラスの半分まであったビールを最後まで飲み干した。




「他人から見たら馬鹿な男だと思うだろうが・・・俺は本気だった。本気であの子を助けたかったし、できることならそばに置きたかった。・・・だからそれができるお前がうらやましいよ」



桜井への想いがそれほどまでだったとは知らなかった。


今は平気な顔をしてるが、辛いに決まっている。飯田先輩は人が良いから周りに騙されることも多かった。それでも人を信用する人だった。


それは今も変わっていないという事がわかった。




「あの子は一途だよ。あの仕事だって今月で辞める予定だったんだ。・・・だから早くちゃんと話し合え。そして俺の分まで幸せにしてやってくれよ」



「・・・わかってます」



「俺はお前だから譲ったんだからな。違う奴だったら引かなかったかもしれないぞ」




その穏やかな笑顔から、優しさがにじみ出ている。


俺はこんな人になれるだろうか。



なぜ、桜井は飯田先輩じゃなく俺を選んでくれたのだろうか。