今夜 君をさらいにいく【完】



飯田先輩は昔から優しい。何も言わなくても、全てをわかってくれているような気がする。

桜井も、そんな飯田先輩だからこそ心を許したのかもしれない。



「それで・・・あれからサナちゃんとは話したのか?」



「いえ・・・俺がまだだめで。頭の中整理できていなくて・・・」



「玲人らしくないな。・・・でもそんなに考え込むほど大事に思ってるんだろ?」



「・・・そうですね」



今まで自分の恋愛話なんて、他人に言ったことなんか一度もなかった。 そんな話をするほど、俺自身今まで恋愛に深く入り込んでいなかったのかもしれない。



「そうか、それならいいんだ。お前がサナちゃんを本気で大事にしようとしてるなら・・・俺はもう何も言うことはないし」



飯田先輩が少し悲しげな笑みを見せる。



「先輩も・・・桜井の事好きなんじゃないんですか?」



と言った俺の言葉に、眉間が少し動いたのを俺は見過ごさなかった。それでも、



「まぁ・・・そうだな。でも俺はもうとっくに振られてるから。気にするなよ」


と、笑顔で答えている。



「でもな・・・それでもあの子の力にはなりたいと思っていたんだ」


「え?」