今夜 君をさらいにいく【完】


「急に誘って悪かったな」



飯田先輩がおしぼりで手を拭きながらにこやかに言う。



「いえ、大丈夫です」



「・・・こうやって話すのも何年ぶりだろうなぁ」


「5年以上は経ってますね」


「そうだな・・・昔はよく一緒に滑りに行っていたけど、この年になると仕事が忙しくて全然滑りになんか行けないな」



学生の頃、三つ年上だった飯田先輩は、俺の事をよくかわいがってくれていた。冬になればスノボー三昧で、休憩する暇も惜しむほどスノボーに明け暮れた。



その先輩と、数年後にこのような形で再会することになるとは。



その時、ビールやお通しが運ばれてきた。



「まずは乾杯だ」と、飯田先輩がビールのグラスをカツンと当ててきた。



「それで、話って」



「ああ、そうだな。まぁわかってるとは思うが、その・・・サナちゃん・・・の事だ」




罰が悪そうに額を軽く掻く飯田先輩。




「俺も話したいと思ってました」


「お、そうか。良かった、また話聞いてくれないんじゃないかと思ったよ」


「この前は大人げない事を言ってしまってすみませんでした。あの時俺も少しイラついてて」


「うん、わかってる」