今夜 君をさらいにいく【完】



「く、黒崎さんっ話がっ・・・」


「話ってなんだ。ここで働いているということか」



勇気を出して言った私の言葉を遮り、煌々と光っているピンクの看板を顎でしゃくった。私はそれ以上何も言えなくなってしまい、また俯いてしまった。



「玲人、これにはワケがあるんだ、サナちゃんだって悩んで・・・」



「飯田先輩は関係ないですよ。第一俺はサナって子は知りません」



「・・・確かに関係ないかもしれない・・・でも俺からも頼む。話を聞いてやってくれ」



飯田さんが必死に頭を下げている。

私のために。

これ以上関係のない飯田さんにみっともないことはさせたくない。



「飯田さん、もうやめてください、顏上げてくださいっ」


「サナちゃん、でも・・・」



その時、黒崎さんが鼻で笑った。



「随分仲が良いんだな。桜井の事ならなんでも知ってるってわけか?」


「黒崎さん・・・黙っててごめんなさい・・・」



私は深く頭を下げた。今、何を言い訳しても聞いてもらえないかもしれない。



「・・・もういい。俺は帰る」



黒崎さんは私達から目線を外すと、踵を返して歩き出した。

その目は信頼も愛情も、何もかもが消え失せたような冷たい目だった。

体の震えが止まらない。



黒崎さんに拒絶された。