「雨強くなる前にお店に来れてよかったね」


「はい、飯田さんが傘持っていたので助かりました」



まもなくお店が入っているビルにたどり着こうとした時、ビルの入口に傘を差した男女がいることに気づいた。


傘があったせいで、近くに行くまで顔がはっきりと見えなかったが・・・



私はその二人の姿を見て、全身が凍り付いた。




黒崎さんと・・・藤本さん・・・



どうして・・・





私はとっさに飯田さんから離れる。




「どうしたの!?」



突然強張った顔をした私に、飯田さんは驚いていた。




「桜井・・・?」



黒崎さんの低く落ち着いた声が私を名を呼ぶ。それは小さく、少し震えているように感じた。普段の自信に満ち溢れているような声ではない。

私は顔を上げられなかった。



“どうしてここに黒崎さんが”



そればかりが頭の中を駆け巡っている。



「玲人?」



その時、隣にいた飯田さんが黒崎さんの名前をつぶやいた。