今夜 君をさらいにいく【完】


「彼女は何時に来る予定なの?」


私は仔羊のお肉を切り分け、口に運んだ。アユムはお皿の上でくるくるとパスタを回している。



「・・・21時ごろって言ってたけど・・・」



彼女の話になると、暗い表情を見せるアユム。やっぱり別れたくないのだろうか。



「緊張してるの?」


「んー・・・」



それ以降アユムは黙りこくってしまった。


まぁ別にいいけど。面倒くさいことにならなければ・・・


私は赤ワインを一気に飲み干した。





お店には21時前に着いた。ホストクラブには生まれて初めて来た。暗めの照明に、わりとスローテンポなBGM。雰囲気だけで酔ってしまいそうになる。


端の方のテーブルに通されると、アユムが私の隣に座っておしぼりと、ワインを持ってきた。



「来てみてどう?」


「広いのね、でもお客さんが全然いないわ、大丈夫なの?」


「はは・・・まだ21時だからなー。わざとこの時間を選んだんだ。人いないほうがいいと思って」


「・・・そうね」



アユムは本気で言うつもりらしい。

さっきまでなんて事なかったのに、急に心臓がドキドキしてくる。なぜだろう。