今夜 君をさらいにいく【完】




カツカツとテンポよくヒールを鳴らし、カフェの近くに行くと、アユムが入口で立っているのが見えた。

黒の光沢感があるスーツ姿で立っていたアユムは、今日もしっかりホストの顔をしている。


でも最近はカジュアルな感じの私服ばかり見ていた。髪も無理にセットとかせず、自然な感じで、私はそっちの方がアユムに似合っていたし、好きだった。



私の姿に気づくと、にこやかに手を振ってきた。



「寒いのに、中で待ってればよかったじゃない」


「いーのいーの。一刻も早く恵里香ちゃんに会いたかったから」




そういう甘いくどき文句が余計に私を不安にさせる。



私達は同伴という形でお店に行くことになっていたので、近くのイタリアンで夕飯を食べることにした。


傍から見たら、ホストに媚びてる馬鹿な女に見えるのかもしれない。


そういう私の思いに気付いているのか、アユムは一番奥の目立たない席を選んだ。


アユムはベーコンとブロッコリーのクリームソースパスタを、私は仔羊のグリルを注文した。

ここのお店は駅からも近く、雰囲気も良いので仕事帰りに何度か食べに来た事がある。