今夜 君をさらいにいく【完】



アユムのスマホが光っている。画面を見ると、“真理奈”の文字。



マリナ・・・女?


アユムは携帯を仕事用とプライベート用に分けていて、この携帯はプライベート用だった。客ではない事に気付く。女友達なのかもしれない。



「電話鳴ってるわよ」



ふいにアユムの顔を見ると、表情が硬くなっていた。



「・・・どうしたの?」


「あ、ああ」



アユムは電源を切った。



「どうして出なかったの?別に出てもよかったのに・・・」


「・・・」


強張った表情のまま、アユムは下を向いていた。



もしかして・・・



「ねぇ、もしかして彼女?」



その言葉に体が反応した。



ああ、そうなのか。やっぱりね・・・


私は騙されていた。


本命の彼女がちゃんといるんじゃない。



私は立ち上がり、アユムに背を向けた。



「・・・なんだ、やっぱり彼女いるんじゃない!」



精一杯平然とした声を出した。



「恵里香ちゃん・・・」



「か、帰ってくれる!?・・・もう遅いし・・・明日も仕事だし・・・」



「恵里香ちゃん!」



アユムが後ろから抱きしめてきた。