今夜 君をさらいにいく【完】



気付いたらアユムの名刺を握っていた。


鞄に入ったままだったのは気付いていたが、どうしても捨てられなかった。それはいつか掛ける日が来ると思っていたからなのかもしれない。


この私がプライドを捨てて電話するなんて・・・


何度か電話するのを辞めようと躊躇った後、私は意を決して番号を押した。


なぜか緊張している。電話は得意なはずなのに。


3コール目でアユムの声がした。



『はい・・・』



この前とは違く、どこか落ち着いた大人っぽい声。



「あ、・・・あの・・・」



『え?誰?』



「・・・」


『・・・もしかして恵里香ちゃん?』



「・・・ええ」



私が返事すると、「っしゃーーーーーーーーーーー!!!」と、電話の向こうで叫んでいる声が聞こえた。



『まじで!?まじで恵里香ちゃんなの!?』


「そうだと言ってるじゃない・・・」


『よかったーーーー!俺さ、あの日番号聞かなかった事、めっちゃ後悔してたんだ。掛ってくる自信もなかったしさ』




そう言われると、電話した事が恥ずかしくなってくる。



「ひ、暇だったからよ!」


思わず、そう口走っていた。



『暇でもなんでも、本当に嬉しいよ。ありがとう。恵里香ちゃん、また会ってくれる?』