今夜 君をさらいにいく【完】


「なに、二人は今日知り合ったばかりなの?」


「ええ、まぁ・・・」


「でもアユム君はかなり君にぞっこんみたいだね」


「ぞっこんって・・・。信用できません、ああいう職業の人は!」



マスターは、洗ったグラスを綺麗に磨きながら言った。



「夜の仕事は信用できない?それは悲しいなぁ。これでもちゃんと誇りを持って仕事してるんだけど」



「あ、すみません、私そういうつもりじゃ・・・」


「アユム君もね、ちゃんと誇りを持ってるよ。彼は仕事熱心だと思う。それがたまたまホストだっただけであって。俺はアユム君が苦労してた頃から知ってるからね。いい子だよ、あの子は」



そう言って私に微笑みかけた。

その時、トイレのドアが開いた音がした。



「とにかく、あの子がここに女の子連れてくるのは初めてだから!それほど君を気に入ったんだと思うよ!信じてあげてね」



こそっと小声で言い、そそくさと裏の方へ言ってしまった。


信じてあげてって・・・


別にアユムとどうなろうなんて思ってもいないのに。



「あれ?マスターとなんか話してた?」



トイレから戻ってきたアユムが笑いながらカウンターの方に目を向けた。