今夜 君をさらいにいく【完】



アユムはカウンターの椅子をひいて、私を先に座らせた。



「最初はビール?」


「ええ、ビールでいいわ」



笑って頷いたアユムはメニューに目を向けて、それからマスターに慣れた感じで飲み物と、フードを頼んでいた。



「ここにはよく来るの?」


「んーたまに。仕事帰りとか来たり・・・」


「仕事ってホスト?」


「なんでわかったんですか!?」



見るからにホストだろうと思ったが、そこはつっこまなかった。

やはりホストだったのか。


私は適当に話を合わせて、お腹がいっぱいになったら帰ろうと思った。



「はい、ビールね。・・・アユムくん、女の子連れてくるの初めてじゃないかー?」



マスターが笑顔で、私とアユムの顔を交互に見つめている。

目の前にはビールと、生ハムとモッツァレラチーズのピザ、野菜スティックにアンチョビポテトフライが置かれ、いい匂いを醸し出している。



「そうっすねー!今日は特別なんすよ!」



何が特別なのか。そういうことを他の女にも言ってるんだろう。私はそこらへんの安い女とは違う。



マスターが他のお客さんの所に行くと、アユムはビールの入ったグラスを私に向けた。



「じゃあ・・・出会えた事に乾杯っと」