今夜 君をさらいにいく【完】



「大丈夫だろ。あいつは言わない」


「・・・違うんです。藤本さん、黒崎さんの事好きだったと思うんです、だから・・・すごくショックだったんじゃないかって」


「・・・そうだな。でもこれが現実だ。俺は恵里香になんと言われようと、あいつの気持ちに応える事はできないし」


「・・・そうですね・・・」



黒崎さん自身も藤本さんの気持ちに気づいていた。

それなのに私を選んでくれたんだ・・・藤本さんには悪いが、嬉しくなってしまう。



黒崎さんは横で椎茸をぶつ切りにし、フライパンでから煎りしている。


「何作ってるんですか?」


「椎茸のバルサミコキャラメリゼ」



そんなオシャレな物食べたことがない。

黒崎さんは一人暮らしが長いせいか、料理の手際が良い。

大根のかつらむきを見て、自分の不器用さに愕然とする。


オリーブオイルをしいて、その中に切ったベーコンと砕いたアーモンドを入れた。バルサミコ酢を入れると、甘酸っぱい香りがキッチンに広がった。


「・・・おいしそう・・・」


「腹減ったろ?桜井のメシ待ってたら何時になるかわかんねぇからな」


「え、ひどい!」


「ん」


そう言って指でベーコンをつまみ、私の方に向けた。