今夜 君をさらいにいく【完】


私が藤本さんの立場だったら・・・


そう考えるだけで涙が出てきそうだ。


私達は色んな人を傷つけてしまった。飯田さんもそう。


私にあんな事言われて、どれほど傷ついたのだろう。


飯田さんの事を思い出すと、今日一日楽しかったことが儚くも砕け散っていくような気がした。




マンションに着き、私は黒崎さんにエプロンを借りた。ベージュのギャルソンエプロンだったが、「ないよりマシだろ」と言って、黒崎さんが私に渡した。


大根をむきながら、さっきの藤本さんの事を思い出す。


結構あっさり納得してくれたようだけど、本当に内緒にしてくれるのかが心配だった。

それに・・・きっと今頃辛い思いをしている。



「手元見ろ!」



大きな声を出され、ハッとする。

包丁が指に突き刺さりそうになっていた。

黒崎さんがはぁーっとため息をつく。



「お前は・・・考え事をすると他が見えなくなるのな」


「・・・すみません・・・」


会社でも家でも怒られてばかりで、呆れられてないか心配だ。



「さっきの恵里香の事か?」



私は黒崎さんを見て頷いた。