今夜 君をさらいにいく【完】



「恵里香・・・」


黒崎さんの声に振り向くと、そこには藤本さんが、目を丸くして立っていた。



ど・・・どうしよう・・・



黒崎さんの方を見ると、少し動揺した表情を見せたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻った。




「二人でこんな所にいるなんて・・・まさかあなた達・・・」



早くなんか言い訳して・・・黒崎さん!!


しかし黒崎さんは、意外な言葉を発した。



「ああ。付き合ってる」



「えっ!!」


私は驚いて、持っていた大根を床に落とした。



「そ、そう・・・」



藤本さんは動揺を隠しきれない様子で視線を足元に移した。



「・・・会社でこの事がバレたら・・・大騒ぎね・・・」


「恵里香、お前は口が軽い奴じゃないだろ」


「・・・ええ・・・大丈夫よ・・・それじゃあ、私行くわ・・・」



藤本さんは一度も私の顔を見ることなく、去って行った。

その後ろ姿はどこか寂しげで、胸が苦しくなった。



藤本さんは黒崎さんの事好きだったはずだ。


私よりもずっと前から・・・