「本当に…分からないのよ」



 そう言ったユイの口唇も、震えている。

 その様子にただならぬ事情がある事を、エイジとレンは悟る。

 この空気を吹き飛ばすように両手をぎゅっと握り締めると、ユイはすっと立ち上がった。



「ちょっと疲れたから、シャワー借りたいの。あ、何か着 るもの、貸してくれる?」

「はい、喜んでー!!」



 立ち上がるユイに、エイジはクローゼットの中をごそごそと捜す。

 程なくバスルームからシャワーの音が聞こえ、タオルと着替えを脱衣所に置いたエイジがリビングに戻ってきた。



「…何なんだ、あの女」



 憮然とした顔で冷蔵庫からビールを取り出し、レンはリビングのソファに座る。

 その向かい側に座り、エイジはタバコを取り出した。



「深~いワケがあんだろ。いいじゃねェか、美人なお姉さまだし」

「ったく、テメェはいつも、お気楽でいいぜ」



 全く、この相棒は女性と見れば、見境なく甘い。

 そのせいでこっちまで面倒に巻き込まれたら、どうするつもりなのだろう。

 だがエイジは、じっとレンを見つめて。



「連れてきたのはテメェだろうが」

「………」


 確かに、そう言われると何も反論できない。

 それにしても、とエイジは言う。



「気になるのは、俺たちのことを知ってたってことだよな 。もしかして有名人なのか、俺たちは」



 ライターを手に持ったまま、タバコを口唇で弄ぶ。

 考え事をする時の、エイジのいつもの癖だった。

 絡まれていた連中はユイの言うとおり雑魚だったとしても。

 レンが倒した銃を持っていた男。

 気配の消し方や、ユイを狙い撃つ角度を見ても間違いなくプロだ。