ぱん、と乾いた音が辺りに響いた。

 車は、倒れたままのミサトを残してその場を去っていく。

 薄れていく意識の中で、ミサトは小さくなっていく車を見送りながら、そっと胸に手を当てた。

 生ぬるい感触が、その手に伝わる。

 このままどんどん身体の中の血が流れて、こうやって太陽の光にさらされながら砂になるのもいい。



「あたし…らしいわ…」



 ミサトは小さく呟いて、目を閉じる



「終わらねェさ…」



 それは、太陽の光だと思った。

 だがよく見ると、サラサラなびく金髪に近い茶髪。

 同時に、ふわっと身体が浮き上がる。



「俺が、ミサトをここで終わらせたりしねェ。目ェ開けろ」

「エイジ…このまま…そっと、しておいて…」

「それはできねェな。俺が偶然、お前を助けたいと思っちまった。言っただろ、死んだら何にもならねェんだよ。這いつくばってでも、生きなきゃダメだ」



 目を閉じたままでも、エイジの顔が見えるような気がした。



「“Chance in a Million”ね…」



 ミサトは気力を振り絞って目を開ける。

 そして、エイジの頬に手を当てた。

 エイジは思ったとおり、優しい笑顔でこっちを見てい て。



「…空港近くにある港の埠頭に、あなた達の車が乗り捨ててあったそうよ…きっと、その近くに、いるわ…エイジの 相棒…」

「あいつ、待ちぼうけくらうのは慣れてるんだよ。俺と違ってデートの誘い方が下手クソでな…今は医者だ。どこにある?」



 エイジはミサトを抱き上げたまま歩き出す。



「エイジ…」



 ここに置いていけ。

 その言葉は、何故か言えなかった。

 エイジの顔を見たら、また、自分が死にたいのか、それとも生き延びたいのか分からなくなってきて。

 今ここにある自分の全てをエイジに預けている限り、その答えは出そうにない。

 何故なら、今までに感じたことのない安らぎと心地よさに、ミサトは酔いしれているから。

 それならば、自分の答えを出すのは、もう少し先でもいい、とミサトは思った。



「焼き鳥屋、よ…」

「やきとり???」



 頷いて、ミサトは再び目を閉じた。