チッと舌打ちをして、ミサトは通話を終わらせた。

 そして、またすぐ鳴る呼び出し音。



「もしもし?」



 しばらく相手の話を聞いて、ミサトはいくつか指示を出す。

 そして、立ち止まり。



「あたしはもう、あんた達の上司じゃないから。あたし“組織を抜ける”わ」



 それだけ言うと、ミサトは携帯を下に落として足で踏みつけた。

 そして、目の前に止まった黒塗りの車から降りてきた男を睨み付ける。



「私の暗殺など、出来るとでも思っていたのか?」



 車から降りてきたのは、今回のターゲット、ロンだった 。

 ミサトは黙っている。



「貴様、どこの組織だ?」

「それを言うバカが、どこにいるのかしらねェ…」



 いくつもの銃口がこっちに向けられる中、ミサトは言い返した。

 ここまできたら、生き延びる確率は限りなくゼロに近い。

 だが、不思議と怖くはなかった。

 やっぱり、自分は、死にたがっているのだろう。

 こんな土壇場でやっとそれが分かっただけでも、儲け物だ。

 だが、心残りと言えば。



「あんたが扱う麻薬の裏ルート、壊滅できなくて残念だわ」

「我々はそんなドジはしない。余程気をつけていないと、今回のように命を落とすことになるからね…例えどんなに優秀なスナイパーでも、我々の情報網を甘く見たことが命取りだな」



 まぁ、そんなことは簡単に予測出来たことなのだが。



「もう1度聞く。何処の組織だ?」

「あたしはミサト。覚えておくのね。あたしより優秀な スナイパーなんてまだまだたくさんいるし、あんたもいつかは終わりが来るわ」

「全くその通りだな。では、先に地獄で待っていてくれるかね?」



 そう言ってロンは、部下に軽く手を上げると車に乗り込んだ。

 銃口が、ミサトに向けられる。

 この距離なら素人でも外したりはしないわね、などとミサトはぼんやりと頭の中でそう思う。