――…本当なら。

 いつもなら、こんなどこの組織の人間かわからないような男と任務以外で肩を並べて歩いたり、話をしたりすることはない。

 誰かと関わりを持てば持つほど、自分の身の危険が増える。

 それどころか、関わりを持った人間の命も、危険にさらすことになる。

 まぁ、相手がそれを承知しているのなら、話は別だが。

 ミサトは、そういう世界に身を置く人間だった。

 今、隣にいるこのエイジという男が気になったのも、今遂行中の任務の邪魔になると思ったから。

 もし任務の妨げになるようなら、始末することも考えていた。

 だが、どんどんエイジのペースに巻き込まれているような気がする。

 しかも、エイジは追われる身。

 こんなことじゃ、自分の身も危ない。



「ごめん、ホントにあたし…」



 ミサトは立ち止まる。

 だが、こっちを振り返るエイジは何を媚びるでもなく、何を責めるでもない…そんな眼差しで、ミサトのことを見つめていた。



「一瞬だけの恋人同士…わかってるさ」



 エイジはジャケットを肩にかけなおすと、この場を立ち去っていく。

 ミサトは喉まで出かかった言葉を無理やり飲み込んで、エイジとは反対の方向に歩き出した。

 さっきから感じている殺気も、エイジの後を追うようにして去っていく。



「………」



 ポケットに手を突っ込んで、ミサトは人ごみの中を無言で歩く。

 その時、携帯の呼び出し音が鳴った。



「…あたしよ」



 この番号を知っているのは、ごく一部の限られた人間しかいない。

 そして、この電話は、いい内容の知らせが来ることはない。

 ――案の定、それは仕事の話で。



「了解。明朝七時、ね」



 それだけ言って、通話を終わらせた。

 本来ならエイジのことを報告しなければならないのだが、何故かそんな気になれなかった。



「…なんなのよ、ホントに」



 はぁぁ、と大袈裟にため息をつく。

 さっきからイライラが増して、何だか胸の奥がスッキリしない

 このムカムカのやり場は、何処にすればいいのか。