「情報はいただいたんだがな。引き際がちょっと、な」



 エイジは右手で頭を掻き毟る。

 苦虫を噛み潰したようなその表情に、ミサトは首を傾げた。



「ロンと会食するヤクザのボスが…ホモだったんだよ」

「……は!?」

「料亭でいきなり俺の太ももを触ってきやがって…カッとなってつい…」



 あぁ、そう言う事情なら仕方ないわね、とミサトは妙に納得する。



「で、殺したの?」

「いや、顔面に蹴り入れてきただけだからな。死にはしないさ。鼻の骨くらいいってるかもだけどな」

「そう」

「あんたとしては、ロンのほうを殺して欲しかったとか?」



 ミサトの顔を覗きこんで、エイジは言った。

 恋人同士のように振舞ってはいるが、会話の内容はそれとは程遠かった。

 質問には答えずに、ミサトは少し笑って話題を変えた。



「さっき、俺達、って言ったわよね?」

「あァ。逃げる時相棒てはぐれちまってさ。どっかの居酒屋で飲んでるかなと思って探してたんだけど…」



 だから、あぁやってあちこちの居酒屋を覗いていたのか 。



「なんで居酒屋なのよ」

「金がねェから」

「あ、そ…」



 まだ、後ろの気配は消える様子はない。



「どうすんのよ、あれ。だんだん増えているような気がするんですけどね」

「さぁて、どうすっかねェ…後は飛行機に乗るだけでいいんだがな…。アイツも拾っていかなきゃならねェし」



 エイジは一人でぶつぶつ言っている。



「あたしも困るのよ、巻き込まれたりするのは。自分で何とかしなさいよ?」

「えぇ~…助けてくれないんですかぁ…?」



 エイジはうるうると目をうるませて、お願いのポーズでこっちを見る。

 冗談じゃないわよ、とミサトは肩にまわされた手を振りほどこうとして…はたと気付いた。

 ジャケットに隠れていて分からなかったが、その左腕からは、うっすらと血が滲んでいた。



「あんた…怪我してんの?」

「あァ、逃げる時ちょっと、な」



 エイジは苦笑する。