「いいか、何かあったらすぐに知らせろ」

「ヘイヘイ。ま、俺がそんなドジ踏むワケねェけどな。今 日の晩メシ何食うか考えとけよ」



 エイジはそう言って、車を降りていく。



「少しは緊張しろってんだ、あのバカ…」



 レンはそう言って、車を駐車場に回す。

 今回の狙いは、今この料亭に入っていった人物が持っているある麻薬ルートを調べること。

 世界にはいくつものルートがあり、その情報はどこへ持って行っても高く売れる。

 警察はもちろん、全世界の麻薬組織がライバル組織との激戦に打ち勝とうと必死なのだ。

 エイジとレンはボディーガードなんかではなく、いわばスパイのような仕事をしている。

 二人は、今はどこの組織にも属してはいなかった。

 情報を掴むため、今はこのアジアでも有数の巨大組織【ホン・チャンヤー】の次期ボスとも噂される実力者、ロンのガードとして潜入している。

 そして、この仕事もそろそろ大詰めだった。

 あまり長くかかわるとそれだけ危険も増える、ということになる。

 ここらへんが潮時だった。



「…ん?」



 少しの異変に気づき、シートを倒して寛いでいたレンは運転席で身を起こす。

 と 、同時に料亭の窓ガラスがいきなり割れた。



「…な、なにィっ!?」



 突然の出来事に、レンは驚く。

 次の瞬間、エイジが外に飛び出して来た。



「出せ!!」



 助手席のドアを開け頭から車内に飛び込んで、エイジは叫ぶ。

 まだドアが閉まらないうちに、レンは車を発進させた。



「わっ…! あぶ…っ!!」



 エイジは慌てて助手席のシートにしがみつく。



「出せ、っつったろ」

「殺すぞテメェ!!!!」



 すぐに追っ手がかかる。

 同時に、車のリアガラスが粉々に割れた。



「神の国ニッポンの安全神話はどこ行ったんだよ!!」



 助手席のシートの下から銃を取り出し、エイジは言った 。