「何やってんだテメェは」
運転席に座っていた短髪の男が、呆れたように声をかける。
「ま、俺はあいつが誰に狙われようと、知ったことじゃねェけどな」
助手席に座るとすぐに煙草を取り出すエイジ。
「狙われた?」
「あァ。500mも先のビルの上から、こっちを狙ってた」
「…よほど腕に自信があるんだな、そいつは」
「女と見たね」
エイジのその自信は、どこからわいてくるのかは疑問だったが。
だがいつものことなので、それがどうしてなのか聞くのはやめておこう、と思う。
「女で腕のいい狙撃手…聞いたことねェな」
「世界は広いからな」
そんなことを言っているうちに、車はリムジンの後を追うようにして走り出した。
「これから、何処にいくんだっけか」
「どこぞのヤクザのボスと会食。その後はノリで、どこでも行くんだろ。かわいいねェちゃんのいる店とか」
エイジはそう言うと、煙草に火をつける。
「ヤツももう少し、自分が狙われてるって自覚したほうがいいんじゃねェのか? 人の気も知らねェでさ。そう思うだろ、レン」
「ま、いざとなったら俺たちをタテにして逃げる気だろ。ヤツはそういう男だ」
「…そうだな。だが、それはテメェに任せるぜ」
「やなこった。テメェがやれよ」
「バァカ、俺が死んだら全世界のレディ達が悲しむんだよ」
「バカはテメェだ」
「んだとコラ」
「ほら、着いたぜ。仕事だ」
リムジンはある高級料亭の門をくぐる。
あーあ、イヤだねェ、とぼやきながら、エイジは大きく身体を伸ばした。