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 そんなに長い間、気を失っていたわけではないようだった。

 気が付いたのは、部下が必死にユイの名前を呼んでいたからだ。



「…よかった、ご無事でしたか」



 目を開けると、ほっとしたように胸を撫で下ろす部下。

 ユイは、すぐさま命令を出す。



「廃工場で火災があったあずよ。何人かそこに行って、人がいないか確認してきて。もしいたら、極秘に私の元へ連れてきなさい」



 声を出すと、喉が痛い。

 だが、そんなことはどうでも良かった。

 意識を失う寸前。



『俺はいい。テメェは早くユイを』

『何言って…!!』

『いいから行け』



 炎の中で、微かに聞こえた。

 ユイの命令を受けて、分かりました、と、忠実な部下は即座に行動する。



「それと」



 ユイは、言葉を付け足した。

 部下は振り返る。



「…ここまで、私を連れてきたのは誰?」



 あの炎の中にいたはずなのに、自分はこんなに軽症だ。

 それに、ここは『ホン・チャンヤー』の中にあるユイのオフィス。

 意識を失う寸前に聞こえた会話。

 さっきから、嫌な予感が胸を支配してならない。



「かなり傷ついた、短髪の男でした。確保しようと試みましたが、我々ではとても歯が立たず…」

「わかった。もういいわ、廃工場の件を急いでくれる?」



 ユイが言うと、部下は一礼して部屋を出て行く。

 すると、ユイの側近であるリーという男が、入れ替わりで部屋に入ってきた。



「ユイ様、そろそろ、ボスが到着する時間です。お早めに仕度を整えてください」



 リーは淡々とそう告げる。

 ユイがこの男を最も信頼する理由の1つに、こういう冷静さが挙げられる。



「…了解」



 そう言うと、ユイは仕度を始めた。