☆ ☆ ☆
そんなに長い間、気を失っていたわけではないようだった。
気が付いたのは、部下が必死にユイの名前を呼んでいたからだ。
「…よかった、ご無事でしたか」
目を開けると、ほっとしたように胸を撫で下ろす部下。
ユイは、すぐさま命令を出す。
「廃工場で火災があったあずよ。何人かそこに行って、人がいないか確認してきて。もしいたら、極秘に私の元へ連れてきなさい」
声を出すと、喉が痛い。
だが、そんなことはどうでも良かった。
意識を失う寸前。
『俺はいい。テメェは早くユイを』
『何言って…!!』
『いいから行け』
炎の中で、微かに聞こえた。
ユイの命令を受けて、分かりました、と、忠実な部下は即座に行動する。
「それと」
ユイは、言葉を付け足した。
部下は振り返る。
「…ここまで、私を連れてきたのは誰?」
あの炎の中にいたはずなのに、自分はこんなに軽症だ。
それに、ここは『ホン・チャンヤー』の中にあるユイのオフィス。
意識を失う寸前に聞こえた会話。
さっきから、嫌な予感が胸を支配してならない。
「かなり傷ついた、短髪の男でした。確保しようと試みましたが、我々ではとても歯が立たず…」
「わかった。もういいわ、廃工場の件を急いでくれる?」
ユイが言うと、部下は一礼して部屋を出て行く。
すると、ユイの側近であるリーという男が、入れ替わりで部屋に入ってきた。
「ユイ様、そろそろ、ボスが到着する時間です。お早めに仕度を整えてください」
リーは淡々とそう告げる。
ユイがこの男を最も信頼する理由の1つに、こういう冷静さが挙げられる。
「…了解」
そう言うと、ユイは仕度を始めた。