「とっくの昔に、何者かに殺されたわ。“事故に見せかけ て”ね。私は、たまたまおじい様の所にいたから助かった けれど…」

「そうか…。悪いこと、聞いちまったな」

「ううん…結局、未だに誰が殺したかは分かっていないん だけどね」

「証拠がない、か…」



 エイジは言いながら、天井に向かってタバコの煙を吐き 出した。

 裏の世界に生きている限り、こんなことは日常茶飯事な のだ。

 因縁やしがらみを断ち切ることは、そう簡単にはできそ うになかった。

 時計を見ると、夜中の3時を過ぎたところだった。

 三人はソファに座り、誰も何も会話をすることはない。

 すでに一杯になっている灰皿に、更にタバコを一本押し 付け、エイジはピクリと眉をしかめた。

 日本刀を小脇に抱え目を閉じていたレンも、険しい目付 きですっと顔を上げる。 ￿



「あと、3時間とちょっとか…」

「んじゃ、行きますかね」



 そう言って、二人は立ち上がる。

 気配なら、ユイも感じていた。

 この屋敷全体を取り囲む“殺気”。



「ここから本部まで、歩いていけるか?」



 レンは聞いた。



「思いきり走ったら、30分もかからないわ。…でも、ど うするの?」

「俺たちが奴らを引き付ける。その隙に、本部になんとか して辿り着くんだ」

「…でも…!!」



 そんなことをしたら。

 エイジとレンとはもう、一緒にいられない。

 このまま本部に戻ったら…。