「エイジは?」
「出かけた」
「…私のことなら、わざわざ調べに行かなくてもちゃんと話すのに」
「ま、それもあるけどな。別の用事のついでだ」
ベランダの向こうから、カラン、とグラスの中の氷が揺れるが聞こえた。
どうやらレンは、酒を片手に話をしているようだった。
「ねェレン…“ホン・チャンヤー”っていう組織、知ってる?」
空港の明かりを見つめながら、ユイは言った。
「…名前くれェはな」
「私、その組織の人間なの…」
レンからは何のリアクションもない。
その代わり、またグラスの氷がカラン、と鳴る。
聞いてなくてもいい、そう思いながらユイは静かに話し出した。
今現在組織のボスは『ハク』という老人だった。
その人物が明日、ボスの座を長年組織に貢献してきたロンという男に譲る。
ユイはもともと組織の人間だった。
ボスの座を譲るにあたって、長老のハクはユイを組織のナンバー2にしろという条件を、ロンに提示した。
「そりゃまた、どうしてだ?」
「…私が、ボスの実の孫だから、よ」
ロンと同様、ユイも組織の中ではかなりの実力者だった 。
組織の中でも人望も厚く、腕もある。
だがある日、ユイはロンの秘密の計画を知ってしまう。
ロンは独自の麻薬ルートを自ら手に入れ、ゆくゆくは“ ホン・チャンヤー”という組織を乗っ取ることを計画していたのだった。
そのことを知っているのか、ハクはお目付け役としてユイをトップの座につけたがっていた。
このことが決まってから、ユイは頻繁に命を狙われるようになる。
だが、ロンが狙っているという確信はなかった。
そこで、一ヶ月前にユイは秘密利に組織を抜け出し、組織の本拠地であるこの街を離れることなく、身を隠して生活してきたのだ。
「ま、よくある後継者争いってヤツだな」
ため息まじりに、レンは言った。