「ご馳走様でした」


光也は自分の分の食器を重ねて台所のシンクに片付けた。


「あれ、帰るの?」


光也がグレーのショルダーバッグを肩にかけるのを見て、食後のデザートにゼリー食べていた香苗が声をかけた。


「明日、早いんですよ」


「ふーん」


ゼリーをぼんやり口に運んでいると、ふいに頭上に影が差す。


「寂しいんですか?」


にやっと不敵な笑みを浮かべる光也に、香苗の体温が上がる。


「バカ!帰れ!」


光也の背中に向かって声を張り上げるとげらげらと笑い声が聞こえた。


「香苗さんってば純情ー!」


「うるさい!」


光也の背中をバシバシ叩きながら半ばムキになって玄関から外へと押し出す。


「みっくんのバーカ!」


バタンと勢いよく閉めた扉の向こうからまだ光也の笑い声が聞こえる。


香苗の方が年上なのにいつも光也に振り回されてばかりだ。


……それを居心地がいいと感じるのは満腹になったせいなのか。


お腹が空いたらお家に帰って。


ふたりでご飯を食べる。


こんな日がずっと続いたらいいのにと思っているのは光也には内緒だ。


香苗は空になった食器に向かって手を合わせた。


「今日も、ご馳走様でした!」


*End*