雪幻の墓標



「ノイさんねぇ、お義兄ちゃんを置いていけって言ってるよ」
 2人にあてがわれた部屋で暖炉の前に並んで座って、リヴェズがふと口にした。

「お兄ちゃんは?」

 カップに入ったスープを一口飲んで、
「身体が持たないし壊されそうだから嫌だ、ってさ」

「ノイさん、悪い人じゃないよ?」

 リヴェズは苦笑した。
 イヤリングを取り上げられていたことを知っても、エフィはこう主張するだろうか。

「ノイさん、寂しいんだって」

 リヴェズは胸が痛むのを感じながら、
「そうだね。僕はノイさんに寂しい思いをさせた」

 そっとエフィの手を取ると、
「聞いてくれるかな?」

 穏やかにリヴェズは語った。

 ノイトラはリヴェズの最初の妻との間にできた娘だという。
 しかし、ノイトラを産み落とすのと引き換えに妻はこの世を去った。

 リヴェズは当然助けようとしたが、ノイトラがいたために力が使えず、腕の中で妻の最後を看取ったのだという。

 口に出しこそしなかったが、リヴェズはノイトラを恨んだ。
 この子さえ生まれなければ、妻が死ぬことはなかったと。

「父親を求めて寂しがっているノイさんに、僕は何もしなかった。
 あの子が僕の奥さんじゃなくて僕に似てくるのも嫌だった。

 いつもいつも、あの子から目を逸らして……挙句、僕はひとりで旅に出た。

 父親なんて呼べるものじゃない。最低だよ」

「…………謝った?」
「……え……?」

 エフィは、リヴェズの真正面に顔を持ってくると目をはっきり見て、
「謝ったの?」

 リヴェズは目を閉じ、首を横に振った。

「謝らないとダメ」
 リヴェズの顔を両手で挟んで固定して、エフィは言う。
「許してくれないかもしれないけど、謝ったのとそうじゃないのは違うよ?」

 言って、立ち上がってリヴェズの手を引っ張る。
「ま、まさか今すぐ?」

「永遠に謝れなくなってもいいの?」

 ――ああ、そうだった。
 エフィにはもう、昔の行為を詫びる相手がいないのだ。


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