「なんで置いて行ったんだよ!?」
リヴェズが帰ってくるなり、手近にあった枕を顔面に投げつけてやった。
「ほら、エフィ、リヴェズ帰って来たぞ?」
エフィは泣きながらリヴェズにしがみつき、また大きな声で泣き始める。
「――何があったの?」
「あんたが置いていくからだ!」
神妙な面持ちになったリヴェズに間髪入れず怒鳴ってやった。
「あんたがいきなり居なくなるから!
エフィは不安になって泣いてたんじゃねーか!」
宿の受付の話では、リヴェズは夜明けのごく短い時間しか現れない魔物を狩りに出たという。
なんでも昨夜、エフィが寝た後で退治依頼が来たのだとか。
そしてリヴェズは、エフィに何も言わずに宿に置いてそれを退治に行ったのだ。
「だって、お義兄ちゃんもいるし、大丈夫だろう?」
ウォルトは耳を疑った。
エフィはリヴェズにしがみついて泣いている。
「あんた、いつもこんな風なのか?
いつも泣くエフィを置いて行ってるのか?」
腕の中で泣くエフィには、リヴェズも困惑しているようだ。
「いつもは連れて行ってたよ。
でもお義兄ちゃん居るし……」
「俺だけ置いていけばいいじゃねーか!」
「……エフィ」
リヴェズは腕の中のエフィを宥めてそっと問いかけた。
「お義兄ちゃんも一緒なら、寂しくないよね?」
気が付けば、ウォルトはエフィの隙間からリヴェズの襟首を掴んでいた。
「あんたなぁ……」
変わった人物だと思っていたが、こんなことを言うとは思っていなかった。
「エフィにとって!
大事な人が目の前から消えるってのがどんなことか分かってんのか!」
エフィは4年前、全てを失くしたのだ。
生まれ育った村はなくなり、故郷の誰にも会えなくなった。
リヴェズが支えてくれなかったら、ウォルトが偶然生きていなければ、どうなっていただろう。
「あんたは知ってんのか!?
エフィはなぁ……髪を伸ばせなかったんだぞ!
村に髪の長い人がいて、いつも羨ましそうに見てた!
伸ばしたいけどおばさんが髪を洗うのが大変だからって、我慢してたんだ!
その!
おばさんにだって甘えられなかったエフィが!
あんたには髪を洗わせて甘えてんだ!!
その意味が分かるかぁ!!」
そこまで叫んで正気に戻り、ウォルトはリヴェズの表情を見た。
――何かを悔やむような表情をしている。
「分かったか、コラ」
「……うん。ありがとう、お義兄ちゃん。
エフィ、ごめんね」
ようやく落ち着いてきたエフィに優しく言うリヴェズを見て、
「エフィ、悪かったな、喋っちまって」
昔の内緒話を勝手に話したことをエフィに詫びた。
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