「……じゃ。状況を整理しようか」

 宿の食堂で3人でテーブルを囲みながらリヴェズが言う。
「エフィもまだ、君が生きているのが信じられないみたいだし。
 まず、君が生きていたいきさつを教えてくれる?」

 現れた男は、エフィの戸籍上の兄のウォルトだった。
 話によれば、エフィが治療院に入った後、子供心に寂しさに耐えられず、エフィの両親に頼み込んで見舞いに出たらしい。
 ところが道中で詐欺まがいの商人に騙されたのもあり路銀がなくなり、稼ぎながら旅をしている間に故郷の封鎖の知らせを聞いたのだという。

「すぐにエフィのとこに行きたかったんだけどな。俺も感染してるんじゃねぇかって閉じ込められて色々調べられて、解放されてそっちに行ったらリヴェズさんがエフィを連れて旅に出ちまったっていうし。
 誰に聞いても行き先が分かんなくてさぁ」

 それで、故郷に一番近いこの町で働きつつ、エフィが帰ってくるのを待っていたらしい。
 知り合いにはエフィと回復術師のリヴェズという名前を伝え、この2人が現れたら連絡が行くようにしていたのだ。

 ウォルトの話が一区切りすると、エフィがまたウォルトにしがみつく。
「……そうだな。お前は俺も死んだと思ってたよな。
 ごめんな、教えてやれなくて」

「エフィ、好きなだけ甘えていいよ。嬉し泣きだから泣いていいし」
 リヴェズもエフィを後ろから撫でながらそう言う。

「こんなことだったら、早くに連れて来ていれば良かったね」

 この町に来たのはエフィの願いあってのことだった。
 18の誕生日、エフィを祝い、婚姻を結び、泣かせてしまったあの日に、何でも我儘を言っていいと言ったのだ。

 するとエフィは、故郷に行きたいと言い出した。
 誰もいなくてもいいから村の跡に行って墓参りがしたい、兄と一緒に行ったあの湖の景色が見たいと。

 正直、エフィがそこで泣くのは目に見えていたし、心の傷も癒えていない筈だ。だから避けていた場所なのだがエフィの願いとあれば聞かないわけにはいかなかった。

 と。柱時計が鳴った。
 気が付くともう日はとっくに暮れていた。

「ウォルト、この後の予定は?」
「あ、大丈夫です。今日中に戻れば。明日も忙しくないですし」

 まだ泣くエフィをあやしながらウォルトが答えると、リヴェズは優しい笑みを浮かべ、
「じゃあ、僕が夕飯の準備をしてるからエフィとたっぷり話してるといいよ。

 あと、普通に話してくれていいよ、お義兄ちゃん」
 いたずらっぽくそう言った。


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