まぁ、咲樹がどんな主義であるかなどには関係なく、
清久にはどんなに遅くなっても咲樹の部屋に泊まらないという主義がある。
その主義とお酒に強くない体質から、
清久は咲樹の部屋でアルコールの入ったものを一切、口にしない。
この前来た時は、咲樹がお茶請けに出したチョコレートの中に
アルコールが含まれていないかを気にして、
ゴミ箱に捨てた箱の裏をチェックしていた。
そのことを考慮して、自分なりに気遣いを見せたつもりなのに……。
「はぁ~。自分が買ってきたビールを僕は飲んだらいけないのかい?」
あくまで不機嫌な態度を崩さない、それどころか、
輪をかけて不機嫌になっていく清久を見つめる目に殺意が宿る。
「早くくださいよ」
そう言って目も合わせずに催促する清久の手のひらに、
咲樹は力を込めてビールを押し付ける。
この無言の抗議だけで済ませようと思っていた。
しかし、思いのほか清久の手が下がらなかったことが気に食わず、
咲樹は言う必要がない言葉を口にする。
