「ねぇ、なに飲む?」
「なにって、ぼくはビールを持ってきたでしょーが」
「えっ、この時間からお酒飲むの? え~、やめときなって」
清久は咲樹の部屋に泊まったことがない。
お酒も外食もあまり好きではない清久と会う時は、よっぽどのことがない限り
咲樹が清久の部屋へ行く。
清久が咲樹の部屋に来ることなど一年に数回あるかないかだ。
そんな稀な機会に、泊まっていっても構わないと何度か伝えたが、決まって
〝ぼくは自分のベッドじゃないと眠れない〟
と即答されてしまう。
別に下心があって誘っているわけではないが、
毎回あっさり断られる自分が惨めに思えてしまうので、
咲樹は泊まっていけなんて二度と言ってやるかと心に誓った。
そして、その日から
〝私は男を部屋に泊めない主義の女〟
だったじゃないかと、咲樹は自分に言い聞かせることにしたのだ。
