ちらりと時計に目をやると、二つの針は二十二時二十八分を示している。
「いらっしゃい」
「はい」
「あっありがとー」
靴も脱がずに渡されたその手土産は、六缶一パックのビール。
咲樹がいつも買っていくメーカーだ。
「遅かったね。別に今日じゃなくてもよかったのに。
ふふっ、そんなに待ち遠しかった――」
「ぼくはあがってもいいのかね?」
「あぁ、ごめん、ごめん。どうぞ」
「おじゃまします」
清久は後ろ向きで靴を脱ぐと、
ぼけっと突っ立っている咲樹を追い越して部屋の中へと入っていった。
声も態度も不機嫌そうな清久に咲樹は少しムッとする。
いつもなら、このぐらいのことでも迷わず突っかかっていくが、
今日の咲樹は違った。
〝仕事が忙し過ぎる時って、心に余裕がなくなるのよね~〟
などと思い、気持ちを切り替えた咲樹は
不自然なほどの明るい声で清久に話しかけた。
