「今日、千駄の家に行く」
唐突に断言した清久の声は、すこぶる不機嫌そうだ。
「えっ? キヨ、今、仕事忙しいんでしょ?」
「いいから」
「サンプル板、どうしても今日見たいの? そんなに待ち遠しかった?」
返事が無い。
「私がそっちに行くよ。その方が楽でしょ?
キヨの仕事が終わるまでここでなら時間潰すのも苦じゃないし――」
「いいって言っているでしょーが!」
音量は小さいが、いら立ちを隠さない清久の声に咲樹は思わず足を止めた。
少しの沈黙のあと、小さく息を吐いた清久がバツの悪そうな声を出す。
「なるべく早く行くから。千駄は今すぐ家に帰れ。じゃ」
――プツッ――
「えっ?」
気付くと咲樹は、もう切れている携帯に聞き返していた。
