触れてみたい〜愛しい彼女の傷跡〜

笑いを押し殺してもう一度冬花にパスをする。

納得のいかない冬花は、もう一度ドリブルを始める。

今度はボールを見つめず、しっかりとゴールリングを見据えて。

俺は息を飲んだ。

彼女があの時と同じ顔をしていたから。

ゴールリングから目を離さずに、ボールをつかもうと両手が左右に開く。

しかし、ボールを手がはさむ前に擦り抜けて地面に落ちていった。

俺は耐え切れず、大きな声を上げて笑いだしてしまった。

「ちょっ。笑わないでよっ!!」

冬花はまた顔を赤くした。

「ご、ごめ。プッククク…」

涙がこぼれ、腹が痛くなるほど笑いが止まらなかった。

そんな時、昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。

彼女は逃げるように体育館から出ていった。

俺も後に続いてでた。

教室に戻ると、一番最初に五島が声をかけてくる。

「おーい。葉山ぁ、昼一緒に食おうと思っていたのにどこ行ってたんだよ」

「るっせ。んな約束してねぇよ」

俺は後ろの席で騒ぐ五島をいつものように無視する。

ふと、窓際の席に目を向けると冬花が大げさすぎるほどに顔をそむけた。

俺はまた必死に笑いを押し殺した。