「し……」 声が震えて、声にならない。 経子は、今にも泣いてしまいそうなのを悟られないために俯いた。 「重盛、何か不服があったか」 「はっ、滅相もござりませぬ!経子殿には何の不満もござりませぬ。ただ…大叔父上を斬ることをお命じになった、信西入道さまに従う父上の跡を継げるほど、私は…!」 「それで、妻を娶る気にもなれぬ…と?」 重々しく頷く重盛の一方、経子は、 (お口ではああ言って下さるものの、きっと誠は私なんかが正妻になるなど、よほど御不満なのでしょう…) と悲しみを募らせていった。