(父上に嘘を申してしまったわ…) 彼女が読んでいたのは源氏物語の写本などではない。 恋文だった。 女房があちらこちらから「家成殿の姫君に」ともらってくるのだ。 一応受け取ってはいるが、応えはしない。 (だいたい、藤原家成の姫なんか他にもいるのに、何故私に来るのかしら) などと思っている経子は、自分の美しさをわかってはいない。 (私は中納言家成の娘。政の道具なのよ) だから、彼女は父からの縁談を待っている。 誰の元へ嫁ぐのかなど、経子には検討もつかない。