「では……おや?」 家成が首をかしげた。 「…?如何なさりました、父上」 「私がここへ来る前からそこにあったが…経子、その書物は何じゃ?」 慌てて書物を隠す経子。 「な…っ、何でもござりませぬ!“源氏物語”の写本を読んでいただけですわ」 「左様か。では」 父の姿が見えなくなったのを確認した経子は、思い切り大きな溜め息をついた。