「経子」 そう呼ばれた少女は、文机に向けていた美しいその顔をあげるなり、綻ばせた。 少女と言っても、既に裳着は済ませているのだが。 「お帰りなさいませ、父上。何処へ出掛けられておられたのですか」 「うむ、今日は池殿のところへ」