すると、明子の表情が少しばかり和らいだ。
「我が殿…いえ、今は違いました。入道様は、皆に無理を言うて少しばかり困らせていらっしゃるようですね。それをお止めできるのは、重盛しかおらぬ。その重盛を支えてやれるのは、経子殿…貴女様しかおらぬ。――どうか、頼みますね」
「――はい」
経子は、意志のこもった声で返事をした。
「されど…娘を入内させようなど、昔の平家からは考えもせなんだ。それ程までに世も変わったのでしょうな」
明子はしみじみと言い…傍らの琵琶を手に取った。
「…そろそろ、ですね」
「御別れにございますか…」
頷く明子。
「本当に、ありがとうござりました」
「いいえ。…それでは」
琵琶の音を奏で始めた途端、睡魔が経子を襲う。
(…あ……)
経子はそのまま、眠りについた。


