――「経子殿。お聞き下さい」
一室に戻り、明子は真面目な顔で経子に向き直った。
「ここは…生きている者がいるべき世ではござらぬ」
「……え?」
(そんな…まさか、私は死んでおる、と…?)
血の気が引いた経子に構わず明子は続ける。
「ですが、死んでおる者留まる場所でもござらぬ。…云わば、生死の境。あの賀茂川は、賀茂川に見せ掛けた、三途の川の如きものにございます」
「三途の、川…?」
俄には信じ難い。
「だから…本来ならば、私は此処におってはならぬ存在なのです」
「では…明子様も、私と同じく……」
明子は経子の言葉に、首を横に振る。
「いいえ。…私はあの世の者…既に死んでおります」


